競馬新聞の調教欄には、馬の仕上がり具合を判断する重要な情報が詰まっています。しかし、ただ時計が速いだけで「この馬は好調だ」と判断するのは早計です。調教コースの特性、基準タイムとの比較、ラスト1ハロンの伸び具合など、複数の要素を総合的に評価する必要があります。
本記事では、追切タイムから馬の仕上がりを正確に判断し、馬券圏内に来るかどうかを見極めるための実践的な評価基準を解説します。
目次
- 調教追切タイムの基本構造
- 主要調教コースの特徴と時計の出方
- コース別基準タイム一覧表
- 時計の良し悪しを判断する3つのポイント
- 追切タイムから仕上がり具合を見極める方法
- 馬券圏内予測への実践的活用法
- まとめ
1. 調教追切タイムの基本構造
競馬新聞に記載されている追切タイムは、以下のような形式で表示されています。
表記例: 助手-栗東坂路-52.3-38.5-24.4-12.2(強め)
読み方:
- 助手: 調教を行った騎乗者
- 栗東坂路: 調教を行ったコース
- 52.3: 4F(800m)の走破タイム
- 38.5: ラスト3F(600m)のタイム
- 24.4: ラスト2F(400m)のタイム
- 12.2: ラスト1F(200m)のタイム
- (強め): 調教の強度
調教の強度について
調教の追い方には以下の3段階があります。
- 馬なり: 騎手はほとんど手を動かさず、馬の自然なペースで走らせる軽めの調教
- 強め: 騎手が手綱を操作しながら、ある程度しっかり追う調教
- 一杯: 目一杯に追い込む最も強い調教
同じタイムでも「馬なり」で出したのか「一杯」で出したのかで、評価は大きく変わります。馬なりで52秒台を出せる馬は、余裕を持って好時計を刻んでいることになり、高く評価できます。
2. 主要調教コースの特徴と時計の出方
栗東坂路コース
全長1085m、高低差32mの坂路コースで、最後まで急な傾斜が続く最も負荷の高いコースです。馬への負担が大きい分、ここで速い時計を出せる馬は瞬発力に優れていると判断できます。栗東所属馬の強さを支える重要な調教設備です。
特徴: 時計が出にくい代わりに、負荷が高く心肺機能を鍛えられる。好時計を出せる馬は実戦での瞬発力が期待できる。
美浦坂路コース(リニューアル後)
2023年10月にリニューアルされ、高低差が18mから33mへと大幅に増加しました。栗東坂路を上回る高低差となり、負荷のかかる調教が可能になりました。ただし、最後の50mのみが急勾配で、全体的な傾斜は栗東ほど急ではありません。
栗東CW(ウッドチップコース)
1周1800mのトラックコースで、アカマツとスギの混合材を使用しています。坂路より距離が長く、スタミナをつけるのに適したコースです。クッション性に優れる一方、表面に凸凹ができやすく滑りやすいデメリットがあります。
美浦W(ウッドチップコース)
1周1600mのトラックコースで、美浦で最も多くの馬が調教を行うコースです。栗東CWと同様の素材を使用していますが、周回距離が短い分、若干時計が出やすい傾向があります。
ポリトラックコース(栗東・美浦)
化学繊維などを混ぜた合成素材のコースで、クッション性と排水性に優れています。天候の影響を受けにくく、芝コースに近い感覚で非常に速い時計が出やすい特徴があります。
注意: ポリトラックは時計が出やすいため、タイムだけで調子の良し悪しを判断するのは危険です。追い方や馬場状態による影響が小さいため、相対的な評価が難しいコースです。
ダートコース
栗東Bコース、美浦Cコースなどがあり、比較的速い時計が出るのが特徴です。天候の影響を受けやすく、雨が降ると馬場状態が悪化します。一杯に追ってもラスト1Fのタイムがあまり落ちないという特性があります。
3. コース別基準タイム一覧表
以下の表は、3勝クラス以上のオープン馬が「強め」または「一杯」で追い切った際の基準タイムです。この数値を目安に、追切タイムの良し悪しを判断してください。
栗東トレーニングセンター
| コース名 | 4F全体 | ラスト3F | ラスト2F | ラスト1F | 評価の目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| 坂路 | 53.0秒 | 39.0秒 | 25.5秒 | 12.4秒 | 52秒台前半で優秀 |
| CW(6F) | – | 51.0秒 | 37.5秒 | 12.3秒 | 6F:82秒台で優秀 |
| ポリトラック(5F) | – | – | 37.8秒 | 12.2秒 | 5F:64秒前半で優秀 |
美浦トレーニングセンター
| コース名 | 4F全体 | ラスト3F | ラスト2F | ラスト1F | 評価の目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| 坂路(新) | 54.2秒 | 39.5秒 | 25.8秒 | 12.5秒 | 53秒台で優秀 |
| W(6F) | – | 51.5秒 | 37.8秒 | 11.7秒 | 6F:83秒台で優秀 |
| ポリトラック(5F) | – | – | 38.0秒 | 12.0秒 | 5F:65秒前半で優秀 |
| Dコース(6F) | – | 50.8秒 | 37.2秒 | 11.9秒 | 6F:82秒台で優秀 |
基準タイムの活用法:
この基準タイムより1秒以上速い時計を出している場合は、スピード能力が高く、好調と判断できます。特に新馬戦や未勝利戦では、基準タイムを上回る時計を出している馬は要注目です。
ただし、基準タイムはあくまで「指標」です。調子の良し悪しを判断する最も確実な方法は、その馬の好調時の調教タイムと比較することです。
4. 時計の良し悪しを判断する3つのポイント
ポイント1: 4F全体タイムとラスト1Fのバランス
追切タイムを評価する際は、4F全体のタイムだけでなく、ラスト1F(200m)の時計が非常に重要です。4F全体は速くても、ラスト1Fが遅い場合は、最後にバテている証拠であり、実戦での末脚は期待できません。
良い調教の例:
栗東坂路 52.0-38.0-24.5-12.0(一杯)
→ 4F全体で52秒0と速く、ラスト1Fも12秒0とスピードが落ちていない。最後まで伸びる脚が使えている証拠。
注意すべき調教の例:
栗東坂路 52.0-38.5-25.8-13.2(一杯)
→ 4F全体では52秒0と速いが、ラスト1Fが13秒2とバテている。実戦で伸びを欠く可能性が高い。
ポイント2: 加速ラップの有無
追切タイムの各ハロンを見て、徐々にスピードが上がっているかをチェックしましょう。これを「加速ラップ」と呼びます。
加速ラップの計算方法:
例: 52.0-38.0-24.5-12.0 の場合
- 1F目: (52.0-38.0) = 14.0秒
- 2F目: (38.0-24.5) = 13.5秒
- 3F目: (24.5-12.0) = 12.5秒
- 4F目: 12.0秒
→ 14.0 → 13.5 → 12.5 → 12.0 と徐々に速くなっており、加速ラップを刻んでいる
加速ラップを刻んでいる馬は、実戦でも末脚が使える可能性が高く、勝率・連対率が高い傾向にあります。特にポリトラックやウッドチップコースで追切を行った馬の場合、6割以上の勝利馬が加速ラップを刻んでいたというデータもあります。
ポイント3: コース特性と馬場状態の考慮
調教コースは日によって馬場状態が変化し、最大1.4秒もタイムが変動することがあります。これはレースと同じく、馬場の含水率や整備状況によって時計の出やすさが変わるためです。
馬場状態による影響例(栗東坂路):
- 時計が出やすい日: 開場直後、ハロー(整備)直後の馬場がきれいな時間帯
- 時計が出にくい日: 多くの馬が走った後で馬場が荒れている時間帯、含水率が高い日
同じ52秒台でも、馬場がきれいな時間帯に出した時計と、荒れた時間帯に出した時計では評価が異なります。可能であれば、その日の他の馬の平均タイムと比較することで、より正確な評価ができます。
5. 追切タイムから仕上がり具合を見極める方法
仕上がり判断の基本: 過去データとの比較
馬の仕上がり具合を最も正確に判断する方法は、その馬の過去の好走時の調教タイムと比較することです。競馬新聞には「連対時」「前走時」のタイムが記載されていることがあるので、これらと比較してください。
比較例:
- 今回: 栗東坂路 52.1-38.2-24.6-12.1(強め)
- 連対時: 栗東坂路 52.5-38.8-25.2-12.5(一杯)
→ 前回連対時よりも全体で0.4秒速く、しかも「強め」で出している。前回は「一杯」だったことを考えると、余裕を持って好時計を刻んでおり、明らかに仕上がりが良いと判断できます。
自己ベストタイム更新の意味
その馬にとって過去最速の調教タイムを記録した場合は、成長著しいか好調なときが多いです。特に若い馬(3歳)や休み明けで成長が見込める馬の場合は、自己ベスト更新は大きなプラス材料になります。
厩舎の仕上げパターンを理解する
厩舎によって「攻め重視」「軽め主義」など、仕上げ方の方針が異なります。例えば、栗東の森英智調教師、高野友和調教師、西村真幸調教師などは、坂路で非常に速い時計を出すことで知られています。
注意: 厩舎ごとの特徴を把握していないと、時計だけで過大評価してしまう危険があります。例えば、常に51秒台を出す厩舎の馬が52秒台を出している場合、その厩舎の基準では「普通」の仕上がりと判断すべきです。
6. 馬券圏内予測への実践的活用法
好時計を出した馬の勝率データ
実際のデータを見ると、以下のような傾向があります。
| コース | 条件 | 勝率 | 複勝率 |
|---|---|---|---|
| 栗東坂路 | 馬なりで4F53.4秒以内 | 芝1200m: 高 | 全体的に高傾向 |
| 栗東坂路 | ラスト1F12.4秒以内 | ダート1200m: 高 | 中山・福島で高 |
| 美浦坂路 | 馬なりで4F54.2秒以内 | ダート1600m: 10.5% | 重賞: 43.8% |
| 美浦W | 馬なりで6F83.2秒以内 | ダート1600m: 16.1% | 中京競馬場で高 |
実践的な評価方法
以下のチェックリストを使って、追切タイムから馬券圏内に来る可能性を総合的に評価しましょう。
馬券圏内評価チェックリスト:
- 基準タイムとの比較: 基準タイムより1秒以上速いか? (+2点)
- ラスト1Fの伸び: ラスト1Fが基準値以内で伸びているか? (+2点)
- 加速ラップ: 各ハロンで加速ラップを刻んでいるか? (+2点)
- 追い方の余裕度: 馬なりor強めで好時計を出しているか? (+1点)
- 過去との比較: 連対時や好走時と同等以上の時計か? (+2点)
- 自己ベスト: 自己ベストタイムを更新したか? (+1点)
評価基準:
- 8点以上: 馬券圏内濃厚 – 積極的に評価
- 6-7点: 圏内候補 – 他の要素と合わせて検討
- 4-5点: 注意 – 調教以外の要素で判断
- 3点以下: 厳しい – 調教面では評価しづらい
調教タイムを使う際の注意点
- 調教だけで判断しない: 血統、コース適性、騎手、馬場状態など、他の要素も総合的に考慮する
- 馬の特性を理解する: 調教で動く馬、実戦で本領発揮する馬など、個体差がある
- 距離適性との関連: 短距離馬は坂路での時計重視、長距離馬はウッドでの調教内容重視
- 併せ馬の相手: 格上の馬と併せて遅れたのか、格下と併せて先着したのかで評価が変わる
7. まとめ
調教追切タイムは、馬の仕上がり具合と馬券圏内の可能性を判断するための強力な指標です。しかし、単純に時計の速い遅いだけで判断するのではなく、以下のポイントを総合的に評価することが重要です。
- コース別の基準タイムを理解し、相対的な評価を行う
- 4F全体とラスト1Fのバランスを見て、最後まで伸びているかチェック
- 加速ラップの有無を確認し、実戦での末脚を予測する
- 馬場状態や時間帯による影響を考慮する
- その馬の過去データと比較し、相対的な仕上がりを判断する
- 厩舎の方針を理解し、時計の出やすさを補正する
これらの視点を持って調教欄を読み解くことで、馬の真の実力と当日のパフォーマンスをより正確に予測できるようになります。週末のレースでは、ぜひこの評価方法を実践してみてください。
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